クラシック初心者時代、中村紘子が演奏するショパンの有名曲をよく聴いた。

ただ、彼女が全盛期、コーヒーのCMに長期間出演したこともあり、甘さたっぷりのショパンの固定概念が残像として残ってしまった。

その後、これら有名曲を毎日聴くことは次第に受け付けられなくなった。


一方、(甘さのない)ショパンの難曲を上手にピアノを弾ける演奏家はたくさんいる。ポリーニはその代表格。芸術家として評価すべきレベルのレコードとして、ショパンのエチュードがある。この演奏は、他の演奏家と比較し圧倒的な演奏として評価されている。音楽評論家吉田秀和の評価もそうなっている。


しかし、ショパンに限って言うと、ポリーニの演奏は、甘ったるさがなく、品格を備えた素晴らしいものなのであるが、何か足りない気がする。


しかし、近藤由貴が弾くショパンは、そのようなことはない。

心に響くのである。彼女が演奏したショパンの「別れの曲」は、普通のピアニストの場合、悲しい別れを聴きながらイメージしてしまうが、彼女の場合は美しい別れに聴こえてしまう。


近藤マジックと言っていい。


ショパン 別れの曲 エチュード Op.10-3 ピアニスト近藤由貴/ Chopin Etude Op.10 No.3 Tristesse,Yuki Kondo

https://www.youtube.com/watch?v=GVG1CJ3aKZM




ノクターンはどうか。全曲演奏したものはないが、ノクターン第2番安心して聴ける。ノクターンは安心感が重要な要素。演奏家としての主張を極力抑え、ほっとするひと時が味わえる。甘ったるさもない。


ショパン ノクターン第2番 ピアニスト近藤由貴/ Chopin Nocturne Op.9-2,Yuki Kondo【クラシック名曲】

https://www.youtube.com/watch?v=6mE7XgXpzDA


子犬のワルツについては、ともすればトリッキーな演奏が多い中、彼女は右手と左手が同期した正確な演奏を試みている。耳でかなり細かい音を聴き分ける能力がある、素晴らしい耳をしていると思う。


子犬のワルツ/Chopin Minute Waltz 近藤由貴 Yuki Kondo

https://www.youtube.com/watch?v=wLKBf_J5gWw


ワルツ集最初の曲で、ありふれただるさ感が漂うせいで、ワルツ集の中で一番聴きたくない曲であるが、彼女の演奏は、酒に例えると上善水の如し的水準に仕上げている。


ショパン:華麗なる大円舞曲 Op.18 ピアニスト 近藤由貴/Chopin: Grande Valse Brillante Op.18, Yuki Kondo

https://www.youtube.com/watch?v=C2nJcBBNpco


幻想即興曲は、演奏家としての誇張というか主張を控えた、スッキリとした演奏である。


ショパン: 幻想即興曲 ピアニスト 近藤由貴/Chopin: Fantasie Impromptu Op.66, Yuki Kondo

https://www.youtube.com/watch?v=EattoN3Y06I


軍隊ポロネーズは、キレがあり、マシンガンにように畳みかける重層な演奏である。


ショパン:軍隊ポロネーズ ピアニスト 近藤由貴/Chopin: Military Polonaise Op.40-1 Piano, Yuki Kondo

https://www.youtube.com/watch?v=X0g6qfiOn7I



演奏テクニック的には、彼女以上の演奏家はいる。が、彼女は、原作に忠実かつ美しいショパンを聴き手に提供しようとしている。彼女の演奏を聴いて、ショパンを聴き直す気になった。


「ショパン」という月刊誌にて彼女のことが紹介されたそうである。




私にとって、今、コンサート会場で聴きたい演奏家は近藤由貴ただ一人である。